キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
最初は二人の空気が剣呑で、食事どころじゃないって思ってたから。
迎えられた時よりも更に優美な笑みで、女将に恭しく見送られた時は、心底ほっとした。
そもそも、なんでこんなコトになったんだっけ・・・・・・。
迂闊にもあたしは、それを忘れかけてた。

門の格子戸をくぐり抜け外に出たところで、前にいた淳人さんがおもむろに後ろを振り返った。

「リツ。この間の礼を、まだしてなかったな」

「えっ・・・?」

目を瞬かせるあたしの前に立った彼は、コートのポケットに何かを探る仕草で、不意に顔の脇に手を伸ばしてくる。
いきなり耳たぶに触れられた感触。それから反対側にも。
武骨そうな指で掬ったショートヘアを耳にかけると、満足そうに笑んだ。

「お前に合う」

自分じゃ何も見えてないから狼狽えてるけど、そこに揺れてるのがイヤリングだってことだけは分かる。

「淳人さん、あの・・・っっ」

何より、隣りに立ってるミチルさんに気が咎めた。
ネクタイを贈ったことは言えてなかったし、これじゃまるで・・・!

言葉を詰まらせながら、すがるように淳人さんを見上げる。

「でも、あたし」

もらえません。振り絞ろうとして。
彼のバリトンが先にそれを遮った。


「その意味もない指輪よりは、マシだと思うがな」
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