キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
ずい分前に、ここにはお兄ちゃんとミチルさんと三人で来たことがあった。
あの時は確か、五分咲きくらいで屋台も出てなかったし、花見客もまばら。
言い出しっぺのお兄ちゃんに、せっかちすぎだってあたしが文句言ったんだっけ。

「ちょうど満開だってSNSに出てたし、土日だったらもっとすごそう」

思い出しながらクスリと返した。


お昼は、園内の混雑ぶりを想定して、駅近の穴場の洋食屋さんでランチを済ませて来たし、あちこちで盛り上がってる雰囲気を目で楽しみつつ、桜色の木漏れ日の中をゆっくり歩く。

前を、穏やかな風に浚われた花びらが、舞いながらひらりひらりと落ちて。
ざあっと吹き抜ける風に、一度に散らされる様はどんなだろう。ふとそんなことを思った。

「りっちゃん、池の方に行ってみようか」

遠慮なく恋人繋ぎをして、こっちを見下ろしたミチルさんがふわりと笑む。

「うん!」


連れてっていいよ。
ミチルさんが望むところなら、どこにでも。

胸の中で答えて。あたしもとびっきりの笑顔で頷いた。

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