ビロードの背中
彼のかばんの中で、携帯電話が鳴った。

放っておこうかとも思ったが、仕事の電話かもしれない。

私は、可哀想に思ったけれど彼を起こした。

彼は眠そうに起き上がり、かばんから携帯を取り話し始めた。





「――仕事?」

「ううん、友達。劇団の奴から。

東京公演が終わったから、飲もうって。」

「――今日?」

「今日は楽日だから、明日かあさってってところかな。

・・・姉さん、いつの間にか寝ちゃった。ごめんね。」


彼が携帯をテーブルに置いた。


「少し疲れたかな。」

と私が言おうとした時、彼の携帯が再び鳴った。

さっきとは違う短い音。

メールだ。

彼は素早く、そして決まり悪そうに携帯を握った。


劇団の東京公演の終了、そしてメールとくれば、

私も彼も、相手は分かる――。
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