やさしくしないで ~なぜか、私。有能な上司に狙われてます~
「あなたに謝らなきゃいけない事があるの。きちんとしておかないとダメだって、彼に言われて。実はね、あなたの事、町田さんにしゃべったの私なの」
「何をです?」
「えっと、悪いとは思ったのよ。町田さん、来たばかりのあなたばかり気にするし。だから、つい」
「だから、何をしゃべったんですか?」
「あなたが、岡君のこと好きで、あの日もずっと岡くんに介抱されるのを狙ってたのに、町田さんに阻止されたってこと」
「ええっ?」顔が強張った。
いくらなんでも、介抱されたいとまで思ってない。
「ごめん。やっぱり、別れた原因ってこれだった?私、余計なこと言っちゃったのよね?」
「いいえ」
謝ってるけど、わかってやってますよね?
この人、確信犯に決まってる。
「顔色変えてたわよ。彼、いつもは冷静なのにね。珍しく黙っちゃって。あんなに怖い顔見たの初めてだったな」
「そうですか」
今になっては、どうしようもない。その時に戻って、言い訳できるわけじゃないんだから。
「知子、何してるんだ?」
「ともこ?」この人が名前で呼ばれているのに驚いたけど、
「はい」と答えたのにはもっと驚いた。
更に……
「行くよ」と彼女の腕を取ったのが田代君だってことにびっくりした。
二人の間にただならぬ雰囲気が漂う。
「田代君まさか」
私は、交互に二人の顔を見比べる。田代君が頷いた。
「ああ、まだ一カ月だけど、俺達、付き合ってるよ」
「ええっ?」かなり年が違わなかった?
「そ、そう」水口さんが、ちらっと田代君の方を見る。
「十近く上だけど。話しさえ聞いてあげれば、素直で可愛いよ」
これが可愛いのか。
田代君て、すごい。
「そう……幸せそうね」
「まあね」