やさしくしないで ~なぜか、私。有能な上司に狙われてます~
キス、された。

まさか。こんなところで、キスされるなんて思わなかった。

びっくりした私は、彼の頬をひっぱたいていた。
強く叩いたつもりはなかったけど、思ったより大きな音がした。
「痛っ……」
「ご、ごめんなさい」
謝ったついでに、きまりが悪くなって部屋から出ようとした。
「待てよ」
ガッチリと腕の中にいた。

腕を振り払おうとしても、びくともしなかった。
「離してください。叩いたりして、悪かったわ。ごめんなさい」
「違う。そうじゃない。都、逆だよ。俺に対して、もっと怒っていいんだ。
ほら、もっと怒りをぶつけろよ」
腕をつかんで言う。
「どうしてそんなことするの?」
彼は、にやっと笑った。
「君が俺に対して、怒りをぶつけるのは、君がまだ、俺の事が好きだからだ」
「変なこと言わないで。散々泣いたもの。もう、とっくに吹っ切れたわ。いまさら何言い出すの?おかしくなったの?」

「その方がいい。君がそうやって感情をむき出しにしてくれてる方がいい。その方が、まだ君との間が切れてないと思えるんだ」
「むちゃくちゃだわ。いったい、どっちなの?」
近づいたり、離れたり思いのままに行動されたら、たまらない。
「水口から、聞いたよ。あの夜のこと」
「その事は、説明したはずでしょう?」
「頭では、わかってる。でも、あいつと二人で部屋にいたのを見たら、君の言うことを信じていいのかわからなくなった」
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