やさしくしないで ~なぜか、私。有能な上司に狙われてます~

自宅で一緒に過ごす女がいるくせに。
私のことなんか、ちょっとした気まぐれで手を出しただけのくせに。
思い出すと胸が痛くなる。

「さあね。それは、誰にもわからないだろう?」
「両方、欲しいってこと?彼女だけじゃなくて、私もキープしておきたいってことかな?」
「都、それ本気で言ってるのか?」
「分からない。そんなの、私だってわかりたくない」
私は、久保君に逆に聞いた。
「ねえ、親しい相手がいても、火遊びしたいって思う?」
「都……話が飛び過ぎだろう?」久保君はもう、笑っていなかった。

「町田部長は、何でもそつなくこなすの。やっぱり、もう、私のこと飽きたんだと思うわ。だって、そうじゃなきゃ、おかしい。急に無視するみたいに態度を変えるんて」
「まあ、落ち着けって。ここで二人で部長の気持ちを想像しても仕方ないだろう?」
「仕方ないから、こうして異動願いまで出してきたのに」
「都、やっぱり、部長のこと、まだ諦めきれないのか?今日の質問の趣旨はそういうことだね」私は、顔をあげた。
「嘘。私悩んでないって。だって、考えても仕方ないのよ」
「どういうこと?」
久保君が、説明しろと言って催促してくる。
「部長には、もう、一緒に暮らしてるような、親しい女性が居るもの……」

「そうなのか?」久保君がはっと息を飲んだ。
ちゃんと確かめたのか?と聞いてきた。
「うん……この目で見たから、間違いない」思い出して泣きそうになる。
彼、私に食事を作ってくれた時には、味見をして欲しいなんて言わなかった。
自信たっぷりにしてた。
でも、あの女性の前では全然違った。
それだけを見ても、彼女に対する態度と違う。
多分、過ごしている時間が違うのだろう。

どんなに思っていたって、あれほど親しい人がいるのだ。その事は、無視できない。
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