やさしくしないで ~なぜか、私。有能な上司に狙われてます~
いったい、何をいい出すの?
私は、キョトンとして彼を見つめる。
彼は、笑って私を抱きしめた。

「分からないか?都、
本気で好きな相手じゃなきゃ、こうはならない。君は、俺の前で、こんなひどい顔するくらい好きだってことだ。よかった。今、それがよくわかったよ」
彼は、自分のハンカチを取り出して、私の顔を拭いている。

「やっぱり、あなたって、最低」
私は、鼻をかみながら言う。

「よく言われるよ」
そんなセリフを、爽やかに笑って言うな。
「やっぱり、あなたのこと大嫌い。私はもっと素直な性格のいい人と付き合うわ」
「同期の久保みたいな男か?」
「ええ、そうよ」
「君は、あいつとは友人だろう?」
「今のところは、です」
「ああ、わかってるよ」
彼は、酷い顔のままの私にキスをした。

「都、何があったんだ?」
優しく撫でくれて、訳を聞いてくる。
ほんと、この人は酷い人だ。

部長に優しく抱きしめられて、不甲斐なくもぽろぽろ涙が出て来た。
ずっと抱えたままの、苦しかったことが一気にあふれ出した。

「だって、見たんだもの。
私、あなたが他の人と、一緒にいるところを見たんだもの」

優しい目でじっと見つめられて、
耐えられなくなった。
あの時の苦い気持ちがあふれて来た。
どうしていいのか、わからなかった。わからないまま、苦しんで来た。

私は、つい正直に打ち明けた。

「見た?見たってなんのことだ?」
それなのに。
彼は、思い当たる事がないと言ったまま、考えこんだ。

私は、それ以上言うものかと口をつぐんだ。


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