月之丞の蔵
どうしたらわかってくれるだろう? 私は思いつく言葉を片端から口にした。

「昔からこの蔵の夢をよくみてたの。来た事もないのに。それに、こっちに来てからは月之丞のことも。二人はこの地下室で人目を避けて会っていたんだよね。甘いお香を雪さんの着物に焚きこんで」

 はじかれたように顔を上げ、月之丞はゆっくりまばたきした。

「なぜ、香のことをお前が知っているのだ」
「やっぱり本当にあったことなんだね。この家は私の母の実家だから、私はきっと雪さんと血が繋がってて、だから、顔とか声とか雪さんとそっくりで、それに雪さんの記憶を夢にみる……つまり」
「お前は……!」

月之丞は私の顔を食い入るように見つめている。

「雪の生まれ変わりなのか?」

 私は小さくうなずいた。

「そうかもしれない、ってだけだけど。でも、そう考えると全部、納得がいくの。夢のことも、私の容姿のことも。昨日はここから無理やり連れて行かれる時の夢を見た。雪さん、泣いていた。雪さん、何度も、月之丞の名前、呼んでたよ」

 音もなく、月之丞が膝から崩れ落ちた。

「そうだったのか……雪」

鼻の奥がツンとなる。夢にみたあの少年、面影があると思ってたけど、きっと、月之丞だ。二人は、幼馴染みだったのだろうか? でも、今となってはそんなこと、とても聞けない。

「そんな理由があったにも関わらず、俺は憎しみにまかせ、魂となり果てても、ここに留まり続けた。未練がましい男だな」

自嘲するように笑うと、月之丞は立ち上がった。

「そもそもが惚れてはならぬ相手だったのだ。……お前のおかげで、ようやく憎しみの鎖から解放されそうだ。俺もついに、あの世ってところに行けるのかな」

月之丞が微笑して壁によりかかると、その顔の向こうに土壁の表面が透けて見えた。

「待って!」

咄嗟に、月之丞の手をつかむ。瞬間、掌に電気がはしった。

「痛っ!」

 思わず目をつぶる。再び目を開くと、部屋の様子は一変していた。
その光景を見て、心臓が止まりそうになる。
 大勢の男達。たくさんの火で明るく照らされる壁。その壁中に、お札のような物がびっしりと貼られ、その中、月之丞は木の柱に縄で縛られ、血まみれになっていた。
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