月之丞の蔵
「やめて!」

叫ぶけれど、誰ひとり、私の声には気づかない。……酷い。思わず両手で顔を覆う。部屋の中には色濃く、あの甘い香りがした。

「やっと本性を現したか」

男の声に顔を上げると、月之丞の姿がない。
忌まわしそうに床を見下ろす男達の視線の先には、真っ赤な血だまり。そしてその中に……。

「嫌っ!」

 目をつぶると、大きな手がふわりと私の両手を包み込んだ。おそるおそる目を開く。目の前で、月之丞が眼を細めて微笑んだまま、涙を流していた。

「見てしまったんだな」

 私は黙ってうなずき、息を一生懸命吸った。

「あんな……ひどすぎるよ。どうして?」
「俺は雪を好きになってはならぬ者だったからさ」

ズキンと、胸の奥が痛む。雪さんの痛みなのか、自分の痛みなのか、わからなかった。

「こんな風に最期を迎えて。二百年も一人で待ち続けて、それで真実がわかったら終わりなんて、悲し過ぎるよ。ね、約束したじゃない、今度は東京に遊びに行こうって。行こうよ。それからでも……遅くはないでしょ?」

月之丞は首を傾け、少し考えた後、優しく微笑んだ。

「そうだな。もう少し、この未来の世界を楽しむのも悪くない。だがな、雪。蔵を出て魂の力でこの姿を保つのは容易ではない。遠くへ行くとなればなおさらだ。そこでお前に頼みがある……」

 夕方、母屋へ戻って、叔父にお願いすると、端から押し入れをひっくり返した後、綺麗な箱に入ったそれを出してくれた。

「白檀のお香が欲しいなんて、雪ちゃんも渋いねぇ」
「ええ、家でよく焚くんです」
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