旦那様は溺愛暴君!? 偽装結婚なのに、イチャイチャしすぎです



「あー……疲れた……」



それからなんとか食事を終え、帰宅した私と津ヶ谷さんは、ふたり情けない声を出しながらぐったりと縁側に寝転んでいた。

小西さんは買い物にでも行っているのか、家にはいなかったため、私たちの気はいっそう緩んでいる。



「緊張した……吐くかと思った……」

「俺も。お前が緊張するからこっちまで緊張した……」



お互いに深く息を吐きながら、空を見上げる。

夕日でオレンジ色に染まり始めており、昼間より少し冷えた風がそよそよと頬を撫でた。



津ヶ谷さんのお父さんが終始和やかにフォローをしてくれたこともあって、なんとか食事も終わることができた。

あんなに豪華な料理にもかかわらず味は一切覚えていないけれど。



今日のことをあれこれと思い出す中、ふと思い出されたのはご両親相手にも敬語を使い、素を見せることのなかった彼の姿だ。



「津ヶ谷さんって、ご両親の前でも王子なんですね。しかも敬語」

「あぁ。まぁ、そもそも外面作るようになったのが親が原因だからな」



親が……?

それって、どういうこと?

たずねるように、同じように横に寝転がる津ヶ谷さんを見ると、彼は視線を空に向けたまま言う。



「子供の頃から母親があんな感じで厳しくてさ。将来のために、って口癖のように言われて、完璧を強いられてた。結果、誰の前でもいい人を演じる王子様の完成ってわけだ」



その言葉とともに、はは、と乾いた笑いを見せた。



そうだったんだ……。

確かにお母さんは子供の教育も厳しそうだ。



悪い人ではなさそうだし、きっとよかれと思って厳しくしたのかもしれない。

けれど、それを子供自身がすんなりと納得できるわけもなく、津ヶ谷さんにもお母さんに対していろいろと思うところがあるのだろう。



オレンジ色に照らされた横顔は、複雑な心境を表すように細められた。


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