旦那様は溺愛暴君!? 偽装結婚なのに、イチャイチャしすぎです
「でも、どうして?」
「たまたま通りがかったらお前が硬直してるのが見えたから」
つまり、動けずにいた私を助けるために?
その気遣いが嬉しくて、それ以上に申し訳ない。小さく「すみません」とつぶやいた。
「あれ、元カレだろ」
「え!なんで知ってるんですか……」
「あんな明らかに動揺した姿見れば誰でも気づくだろ。わかりやすすぎ」
そう、先ほどの彼は4年前に別れたきり会っていなかった元カレだ。ちなみに私の人生での初彼氏でもある。
取引坂のアパレル会社の営業の彼とは、以来機会もなく顔を合わせることもなかった。
別れ際があまりいい思い出じゃなかった。それどころか苦い記憶しかなく、この心にすっかりトラウマを植え付けられてしまったことから、つい動揺してしまったのだった。
「で?元カレと再会して動揺するとか、まだ意識してんのかよ。それとも未練でもあるのか?」
「べっ、べつにそうじゃないですよ!」
『元カレへの意識』、それを言い当てられ、誤魔化すように顔を背ける。
けれど、津ヶ谷さんはそれを逃さないように、右手で顔を向けさせる。
「じゃあなんだよ」
その茶色い瞳は問いただすように私をじっと見つめた。
けれど、過去の自分の情けない経験や弱音をここでさらけ出すなんてことはとてもじゃないけれどできなくて、私は思い切りその手を払う。
「なにもないです!ほっといて!」
そして逃げるように、ミーティングスペースをあとにした。