強気なサッカー選手の幼馴染みが、溺愛彼氏になりました



 返事が出来ずに固まったままの秋文をみつめて、立夏は立ち上がって、強い口調で責めた。
 立夏らしい叱咤の方法だとわかっているが、今はその声さえも辛かった。
 自分が1番彼女を理解していると思っていたのに、それは勘違いだったのだ。

 
 「あいつは、俺がスペインに行って欲しかったのか。長い間、待たせることになっても……?」
 「秋文は、10年も片想いしてまってたなら、千春にも待たせてやればよかったじゃない!そんな時間も待てないほど千春はバカな女だと思ってんのっ!?このヘタレ男っ!」
 「立夏…………言葉が汚ないぞ。でも、立夏の言っている事は正しいかもな。千春は、きっと待っていられるさ。秋文のサッカーしている姿が好きなんだろ?……待たせてる訳じゃない。応援してくれてるんだろ。」


 この2人は何でそんなにも俺や千春の事をよく見ているのだろうか?
 恋人でもない、ただの友達だ。
 けれど、秋文や千春と同じように、この2人も俺たちをしっかり見ていてくれたのだろう。
 それを感じると、出と立夏に感謝しかなかった。

 
 2人が言うように、千春は自分には勿体ないぐらいのいい女だ。それなのに、信じないで彼女は寂しがるから、夢を諦めるなんて、自分勝手な我が儘だ。
 彼女のためと言いながらも、秋文自身が寂しいだけなのだ。
 そんな秋文の背中を押してくれたのだろう。
 自分が目の前からいなくなることで、自由になって欲しいと。


 「あいつは、どこで俺を見ていてくれるんだ?」
 「………まぁ、日本ではないことは確かね。」
 「会いに行きたいか?」
 「……会いたい。けど、今はそうじゃないだろう。」


 千春に会って、抱き締めしっかりと謝りたい。
 けれど、今は胸を張って会えるはずもない。
 きっと、みっともなくてかっこわるい自分だ。
 
 彼女がせっかく、道を作ってくれたのだ。
 自分でも諦め、そして忘れかけていた夢を。それを、追いかけていくのが今、彼女のために出来る唯一の方法だ。


 「決めたよ。俺はスペインに行く。」



 そう強い言葉で言った秋文を見つめて、立夏と出は満足そうに微笑んだ。
 
 先程までの迷いの瞳は、もうそこにはなく、真っ直ぐと前を見据える力強い視線が、秋文にあった。



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