好きの代わりにサヨナラを【蒼編】《完》
カッコつけたことを言ってみたが、俺は警備員によって会場の外へつまみ出されてしまった。

念書にサインはしなかったが、警備員に顔写真を撮られてしまった。

今頃警備員の部屋には、指名手配犯のように俺の写真が貼られているだろう。

握手会も出入り禁止になって、ファンとして芸能人のほのかに会うことすらできなくなってしまった。



会場を出る時、「体調不良により、ほのかの握手会は中止する」とアナウンスされていた。

俺が、ほのかを泣かせてしまった。

そのことが、一番ショックだった。



俺は何を期待していたのだろう。

俺が『好きだ』と言えば、彼女も『俺のことが好きだ』と答えてくれると思ったのか。

落ち込んでいたあいつが、元気になって笑顔を見せてくれると思ったのか。

俺は、あいつを追い詰めただけだった。



大手事務所の人間に何か言ったところで、生意気なガキがギャアギャアわめいてる程度にしか思われないだろう。

アイドルのあいつを握手会から連れ出して逃避行するなど、俺には最初から無理な話だった。
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