好きの代わりにサヨナラを【蒼編】《完》
「あたしたちのセカンドシングル」

物憂げな表情で遠くを眺めるほのかの表情がアップで撮られているCDのジャケット。

まさか本人から直接渡されるとも思わず、俺は発売日に店に行って買ってしまった。



ほのかが手に持っているのは、市販のCDと全く同じものだ。

特にサインも入っていない。

『もう自分で買ってしまった』とも『ジャケットにサインしてほしい』とも言えず、俺は「サンキュー」と受け取った。



ほのかが俺のためにCDを持ってきてくれた。

そんな彼女の気持ちが嬉しかった。



俺たちが席を立つ頃には、他の客は全員いなくなっていた。

薄暗い映画館では彼女の手を握れたが、明るいなかでほのかと手をつなぐ勇気はなかった。
< 69 / 210 >

この作品をシェア

pagetop