打って、守って、恋して。

「見たい見たい!淡口さん許してくれるかなあ」

「許してくれるよ、淡口さんだよ?なんか甘いものでも渡して頼もうよー」

あっけらかんとした笑い声を上げながら、沙夜さんはひらひらと指を動かす。
すっかり見る気になっている彼女は、楽しみだなーとつぶやいてまた仕事を再開していた。

そういえば、沙夜さんは栗原さんが野球をしている姿を見たことがないはずだ。彼のあの姿を見たら、どんな顔をするだろう。


「でもさ、そもそも準決勝まで勝ち上がれるのかな」

先ほどから請求書の作成を続けてはいるが、私は一向に集中できない。
隣にいる翔くんに根本的な疑問をぶつけると、彼はとても軽い口調でカラカラと笑った。

「大丈夫っすよー。日本ってけっこう強いんですよ?どの世代でもだいたい準決勝や決勝までは行ってますから、問題ないと思いますけどね」

「ふぇぇー。翔くんって物知りだね」

「いや、石森さんが知らなすぎるだけなんじゃないっすか?」

その通り、翔くんが言うことは何も間違ってはいない。


藤澤さんが以前話していたプロのトップチームや、高校生の日本代表もアジア競技大会に出るのかと思っていたのだが、それはどうやら間違いのようで。
というか、私の知識不足。
プロは日米野球に向けての代表選抜、高校生はU18アジア選手権と、そもそも出場する試合自体が別のもの。

まったく別物の大会や試合にそれぞれの代表が出るのだから、頭が混乱してしまう。

おそらく沙夜さんも分かってないと思うが、興味がないスタンスは崩さない。
そのへんはさすがである。


ネットで探すと、藤澤さんが合宿をしている社会人代表チームの記事がいくつか出てくる。
代表メンバーの一覧や試合の日程などは載っているものの、本当に本当に扱いが小さい。

これもプロとアマチュアの違い……か。


頬杖をついて、彼は今頃どんな練習をしてるのだろうと思いを馳せた。







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