打って、守って、恋して。

「柑奈ちゃんがファンだっていう彼は出てるのかい?なんだっけ、栗原?」

「藤澤さんです!栗原さんはピッチャー!」

「あーそうか、すまんすまん」

名前すらも覚えてくれない上司に呆れそうになったが、いちいち部下が騒いでいる野球選手を覚えていられないのが本音だろうから、うるさくは言えない。

「毎試合、スタメンで出てますよ。打順は七番ですけど、打撃の調子はいいです。フォアボールもけっこう選んでますし、出塁率も高めです。昨日は盗塁もひとつ決めたんですから!」

「ほぉぉ。頑張ってるなあ」

一方の栗原さんも予選で先発登板した時には七回無失点でおさえ、チェンジアップが冴え渡り打たせてとるうまいピッチングを披露していた。
今のところは二人とも調子は良さそうだった。


そこへパソコンで入力作業をしていた翔くんが、なにやらサイトを漁っていたようで「おっ」と声を上げる。
なんだなんだと近づいてみたら、いくつか写真が掲載されていて、日の丸のついたネイビーのジャケットを着たひとたちがいた。

「結団式の様子らしいっすよ。色々調べてたら出てきました。この中にいます?藤本さん」

「翔くん!藤澤さんだよ。間違えないで」

訂正しながらもパソコン画面に食い入るように見つめる。
いつの間にか向かい側にいた沙夜さんまでもが、私たちの後ろにくっついて一緒になって画面を見ていた。

翔くんが画面を少しずつ下へ移動させていくうちに、見覚えのある顔を見つける。

「あ!栗原さんだ」

「おー!こりゃあ、すごいハンサムな男だなあ」

すぐに見つけてしまえるくらい、栗原さんは本当に目立つ。
高身長なのもあるのだが、こうして見るとオーラが違う。イヤミくさくないかっこよさと爽やかさ、そして端正な顔立ちがほかの人を圧倒するのだ。

さすがの淡口さんも、彼の容姿を褒めるほどに。


「なんだぁ、ユニフォームじゃないのね」

つまらなそうな顔をする沙夜さんに、私が切々とこの日本代表しか着られないジャケットの重要性を説明しようとしていたら、彼女がふいに目を見開いた。

「あっ、これ藤澤くんじゃない?」

「どこですか!?」

「これこれ!……どこ見てんだろね、一人だけ違うほう見てるよ」

やっと見つけた藤澤さんはたしかに写真の中にいたけれど、沙夜さんの言う通りほかの人たちとは明らかに違う方向を向いていて、決してふざけているわけでもないし、心ここに在らずというわけでもないのに、何かに気をとられている様子だった。

そういう写真映えしないところも、またいい。

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