打って、守って、恋して。

……そうなのだ。
じつは旭くんもまた、新人王を獲得していたのだ。
栗原さんとはリーグが違うので、新人王争いをすることなくあっさりと選ばれた。

ついでに旭くんはゴールデングラブ賞もいただいている。
このゴールデングラブ賞は、プロ入りしたらいつかはとりたいと言っていた目標でもあったようなので、私もかなり嬉しかった。


「栗原が家でダラダラしてるのは散々聞いてるから知ってますけど、藤澤はどうなんですか?」

翔くんの何気ない質問に、私はうーんと答えに詰まる。

「普通…かな」

「普通って?」

「きちっとしてる時もあれば、ダラっとしてる時もある」

「面白くないっすね」

「ほっといてよ」

その「普通」がいいんだから。

もはや雲の上の存在となりつつある私の恋人はプロ野球選手として一年通して過ごして、ついこの間ようやくシーズンオフに入ったばかりだ。
やっとゆっくりできるかと思いきや、表彰式だの取材だのなんだので、まだこっちに戻ってこない。

ずーっと東京にいるのだ。


野球関係の雑誌にもよく掲載されているし、スポーツニュースでも取り上げられているのを見たことがあるし、とても可愛らしい女子アナにインタビューされているのも見たことがある。
そのたびにソワソワするのだが、当の本人は
「何をしても俺は目立たないから大丈夫」
の一点張り。

そんなことってあるの?

ファン投票で出場が決まる夏のオールスターも、旭くんは出られないかと思いきや選手間投票でさりげなく出場して、この前なんか全国でやっているスポーツ番組にもVTR出演していた。
じゅうぶん目立っているようにしか見えない。

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