打って、守って、恋して。

彼は一年目ながら先発ローテーションに食い込み、素晴らしい成績をおさめた。あのどこまでも伸びるストレートで強打者をバタバタ打ち取る姿は清々しいほどにかっこよくて。
女性ファンがもっともっと増えた。

「なんで結婚してんのよ!独身じゃないわけ!?」
という声も幾度となく聞いてきたが。


「北海道の誇りだな、栗原は。新人王までとっちまって。かっこよすぎるだろ」

「家じゃダラーっとしてますよ?昨日だって靴下丸めて脱いでて、何度言っても直らないんですから!大きな子どもみたいでほんっと大変…」

ピシッとスーツを着こなして新人王の記念トロフィーのようなものを持って栗原さんが笑顔で映っている写真。ちょうど先日発表され、昨日まさに表彰式があったばかりで、今日の新聞に載っていた。
淡口さんがスポーツ欄をまじまじと眺めながら、これもいつもの沙夜さんの旦那さまに対する愚痴に適当な相槌をうつ。

あまり触れないようにして仕事に励んでいた私に、「柑奈ちゃん」と淡口さんが声をかけてきた。

ビクッと震える。

「……は、はい」

「柑奈ちゃんの彼氏もヤバいことになってるな」


ぱっと開いた淡口さんの持っている新聞には、笑顔の栗原さんと─────ぎこちなく笑う旭くんの姿。彼もまた、栗原さんと同じトロフィーを持っていた。

「セパ両リーグの新人王がやまぎん出身って…どうかしてるぞ」

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