打って、守って、恋して。

やまぎんの応援団は、それはもう大興奮で。
凄まじい声援が藤澤さんに送られていた。

しかし彼はやはり笑うことはなく、一塁コーチとなにか話しているだけ。
だって、まだノーアウト満塁は続行中。
追加点をとるなら、今しかない。彼の中で緊迫した場面は続いているのだ。


「あそこでセーフティ仕掛けてくるとは…。ベンチも賭けに出たね。藤澤職人がバントうまいの分かってて出した指示だろうなぁ」

感心したように凛子が「ねっ」と同意を求めてきたけれど、私は無言でうなずくしかできなかった。


すごい。すごい。
派手なホームランじゃなくたっていい。
大事な場面で確実に点をとった。それでいいんだ。
きっと、彼がバントが上手で足が速いのを踏まえた上で決めた作戦なのだろうから。


そこから次の三番打者が犠牲フライを打って一点を追加したものの、四番打者が痛恨のダブルプレーを喫してしまい、十回の表の攻撃は終わった。

2対2で動かなかった試合が、十回にやっと動いた。
4対2。勝利はすぐそこだ。


これまでチームを支えてきた栗原さんが十回のウラもマウンドに上がる。

スラリとして背が高く、スタイルのいい彼のしなやかな身体が伸びて投球練習をしていた。
優勝投手に相応しい、凛としたたたずまいだった。


「やまぎん!やまぎん!」

どこからともなく、やまぎんコールが沸き起こる。
あとアウト三つ打ちとれば、山館銀行は都市対抗野球大会で初優勝。

みんなの期待を背負って、栗原さんが力強い投球を続けた。

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