打って、守って、恋して。

「なんか、もう、ちょっと泣きそう」

凛子はすでにハンカチで目頭をおさえながらグズグズしている。
私も気を抜いたら涙ぐんでしまいそうだったので、なんとかそれを我慢した。


交代した時からずっと変わらないテンポのいい投球で、打者二人を三振にとる。
大きく空振りした打者が、悔しそうにバットを叩きつけているのが見えた。
相手チームだって、こちらと気持ちは同じだ。優勝したいというその気持ちでやってきたはずだから。

藤澤さんが栗原さんに向かって人差し指と小指を立てて、ツーアウトのサインを送っている。栗原さんはそれに応えるように、一度だけうなずいていた。


「あとひとり!」という大合唱の中、栗原さんが最後のバッターへ勝負をかける。

一球目、ストライク。
二球目はボール球を相手バッターが空振り。

ノーボール、ツーストライク。

ひときわ「あとひとり!」コールが大きくなる。


三球目を、打者が振り抜いた。

木製のバットが割れて、片割れがファウルゾーンへ飛ぶ。
残った柄の部分のバットを力なくポトリと落とした打者は、がっくりうなだれて一塁ベースへ重い足取りで走り出す。

フラフラと上がった打球は、ちょうどよく藤澤さんのいる一二塁間のあたりで落下した。


落ちてきたボールを、大切に大切に、こぼさないように丁寧にグローブで受けた彼は、ここで初めて両手を上げて笑顔を見せた。

ボールを握ったまま選手たちがマウンドに向かって駆け出し、栗原さんはたちまち仲間に押しつぶされるみたいにして歓喜の渦に飲み込まれる。

鳴り止まない歓声が、やまぎんの優勝を祝福していた。


「やったあ!柑奈ー、やったよー!!」

「うんうん、やったね!」

私と凛子も抱き合った。


グラウンドには、たぶん今までで一番の笑顔の藤澤さんがいて。
その顔を見れただけで、もう何もいらないと思ってしまった。
東京まで来てよかった、と。


「栗原ーー!!お願いだから付き合ってーー!!」

どさくさに紛れて図々しいことを叫ぶ凛子の言葉で、思わず爆笑してしまった。





第90回 都市対抗野球大会 優勝 山館銀行(北海道)

歴史に名を刻んだ瞬間だった。



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