打って、守って、恋して。

会いたい会いたいと騒いでいたのだから、偶然でもこうして握手を交わせてよかったなと拍手を送りたい気持ちで見ていると、藤澤さんが「石森さん」と呼びかけてきたので慌てて振り向いた。

「お昼休憩中ですよね?すみませんでした」

「あっ、それは全然!緩い職場なので気にしないでください」

淡口さんだってお昼休憩を過ぎてもダラダラと外でタバコを吸っている時もあるし、沙夜さんなんて「ネイルが乾くまで待ってー」と指をヒラヒラさせていることもざらにある。

今日も私が少しくらい時間を過ぎたって、たぶん何も言われないだろう。
それをいいことにここぞとばかりに少しだけ距離を詰めた。

「藤澤さんたちって、こっちで着替えてから練習に向かうわけじゃないんですか?前にカードの対応してもらった時は練習着だったような……」

「え?そうでしたっけ?基本、着替えはあっちでやってるんだけどな」

と、答えてから彼はすぐに何か思い出したようではっと目を見開いた。

「あ、間違えた。少し前に練習場のロッカーを新しくすることになって、三日だけこっちで着替えて行ってたかもしれないです。その時かな」

「あれは貴重な姿だったんですね…」

「練習着なんてよく見ると落ち切れなかった汚れとかそのままで、あまり褒められたもんじゃないですけど」


苦笑した藤澤さんは肩に担いでいたバッグをもう一度かけ直すと、「そろそろ行かなくちゃ」と腕時計にちらりと視線を落とした。

引き止めてしまったことに罪悪感を感じて、急いで頭を下げて彼を送り出す。

「あの、本当にご迷惑をおかけしてすみませんでした。練習頑張ってく」

「あっ、石森さん」

思いっきり言葉を遮られて、下げていた頭を戻すとすぐそばに藤澤さんの顔があった。

「この前、森伊蔵を飲みに行こうって話してましたけど、俺、来週から日本代表の合宿が始まっちゃうんです」

「あっ、そうみたいですね!なので、全然気にしないでもらって……」

「もしよければ、今週中に行けたらと思うんですが、予定どうですか?」

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