死にたい君に夏の春を


体のあちこちが痛い。


懐かしい、この感じ。


手は後ろに縛られ身動きなど一切取れず、長時間座っていたことで足が痺れる。


足元には酒の缶やビン、悪臭がするゴミ袋が散乱している。


また、この場所に戻ってきてしまった。


もう戻るはずなんてないと思っていたのに、なぜ。


突然、玄関の扉が開く。


入ってきたのは、目がくぼみ、やつれた顔をした父親だった。


「飯持ってきたぞ」


その手には、たった一つのコッペパン。


父親はそれを袋から出し、二つに分ける。


「ほら、腹減ったろ。いっぱい食べな」


半分を少女の口に無理やり押し込もうとするが、噛むことなんてできやしなかった。


「おい食えよ。折角お前のために持ってきてやったのに……食わねぇと死んじまうだろ?」


少女はパンを食べようとするが、すぐに咳き込んで吐いてしまう。


「なに吐いてんだよクソガキ!」


ゴッ


みぞおちに父親の膝が直撃する。


ごめんなさい、ごめんなさい。


言おうとするが、少女は声が出ない。


「なんでそうやっていつも抵抗するんだ。なんでそうやって逃げるんだ」


父親は、爪をガリガリと噛んだ。


「お前までいなくなったら、俺はどうすればいいんだよ。なぁ、頼むから1人にしないでくれよ……」


ごめんなさい。


そして少女に顔を近づけ、自分の左頬を触る。


「これ、お前が逃げた時携帯で殴った傷。アザができてるだろ。すごく痛ぇんだ。お父さんは優しいからな、かわいい娘の顔を殴ったりしない。だから代わりに」


父親は、すぐ側にあった木製バットを手に取った。


「腕を折ってやるよ」
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