死にたい君に夏の春を
そんな甘い期待は、一瞬にして裏切られた。


ひとつの紙袋から、着信音が聞こえる。


慌てて左手でその中身を取り出すと、セーラー服のポケットにうるさく鳴り続ける携帯があった。


あーー。


なんだよ、こんな時に。


イライラと焦りが募り、拳を床に叩きつける。


いざと言う時に交換した電話番号も、何も意味をなさないじゃないか。


僕は鳴っていたスマホの着信を切る。


すると、突然九条のスマホの電源がついた。


偶然ロック画面をタップしてしまったようだ。


消そうと思って伸ばした指は、その画面を見て止まった。


目に飛び込んできたのは、1枚の九条の写真だった。


暗い部屋で、彼女が薄いタンクトップ姿で床に座っている。


ただの写真ではなかった。


その写真の彼女は、全身アザだらけで、腕には痛々しい切り傷まである。


あまりにも凄惨で、明らかに悪意のある写真だ。


今日の楽しそうな笑顔からは考えられないほど光のない目で、ただ空虚を見つめていた。


思わず、それを見て吐き気がした。


惨たらしすぎて、耐えられない。


しかし、僕は画面をスライドした。


その事実から、目を背けないために。


何枚も、何枚もある。


同じ日付ではなく、ほとんど毎日撮られている。


僕は血が出るくらい、唇を噛み締めながら写真をスライドする。
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