死にたい君に夏の春を


しかし、銭湯は苦手である。


見ず知らずの人と裸になって一緒の浴場に入らなければいけない。


綺麗かどうかもわからないのに、なぜ平気でいられるのだろう。


そんな文句も言いながら、結局風呂には入るのだけれど。


どっぷりと湯に浸かる。


まぁ、悪くは無い。


人も少ないし、こんな大浴場に入ることも滅多にないからな。


ふぅ、と一息つき、ロッカーの鍵のことについて考える。


承諾したからには、やるしかないのだろう。


さっき扉の隙間から見た仮眠室には、70歳くらいの老人もいたし一応チャンスはある。


寝ているところで、こっそり鍵を頂戴すれば気づかれない。


だんだん体が火照ってきた。


よし、行こう。


盗むことを決心し、浴場から出た。


脱衣所には3、4人ほど人がいる。


椅子でくつろいでる人や、コーヒー牛乳を一気飲みしている人など。


僕は人目を気にしながら体の水分をタオルで拭き、服を着た。


今からでも緊張して、動悸が激しくなる。


仮眠室の方を見てみると、6つほどある簡易ベッドの一つにまだ老人が寝ている。
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