死にたい君に夏の春を
今なら……いける。


行こうとしたが、足が止まる。


いや、本当にいいのか?


今まで平穏に暮らしてきたのに、こんなこで日常を簡単に壊してしまっていいのだろうか。


九条のただのわがままで。


だがよく考えてみる。


彼女に出会ったあの夜から、自分の日常は既に壊れていたのではないか。


あの刺激的な光景を見てから、僕は変わった。


今まで僕は、平穏に暮らしたいんじゃなく、ただ恐れていたのだ。


予測できない展開の物語になることを。


先が見えないのは怖い。


だから色んなことから逃げてきた。


けれど今は。


ものすごく、ワクワクしている。


これが母の求めた快感なのだろうか。


見つかるか見つからないかの瀬戸際で、人生最大の賭け。


ふと、生きてる、と実感した。
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