死にたい君に夏の春を
「やけに慣れてるな」


「……まぁ、不法侵入したことないって言えば、嘘になるけど」


やっぱり、あるのか。


もはや彼女の行動に驚かなくなった自分がいる。


暴行、窃盗、不法侵入って、もう少年院に入った方がいいんじゃないかってぐらいの履歴だ。


暴行に関しては正当防衛だったらしいからいいけれど。


というか、そのうち2つは僕も共犯じゃないか。


僕も立派な不良になってしまったということだ。


悲しいような、今までの自分と違う自分になれて嬉しいような、複雑な気持ちである。


そんなことを考え、隠れながら校舎の方を見てみると、窓の光がふっと消えた。


数秒経ってから2階でまた光が見えたから、警備員が移動してどうやら1階には今誰もいないらしい。


「いこ」


九条は裏口に向かって姿勢を低くしながら早歩きをする。


僕も右足をかばいながら着いていく。


彼女は気を使ってくれてるのか少し速度が遅く、僕のことを気にしながら先に進む。


その優しさが、なんだか嬉しくて心地よかった。
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