死にたい君に夏の春を


裏口まで回り込んで、扉を開けようとする。


だが、やはり鍵が閉まっている。


「はぁ……だめか」


閉まっていることは分かりきっていたが、もしかしたら空いているんじゃないかって少し期待していた。


だが現実はそう甘くない。


いつもなら年密に計画を立てて行動する性格なのだが、今回は勢いで来てしまったのでノープランである。


最終手段として窓でも割ればいいと思っていたが、古い校舎のくせして強化ガラスだったらしい。


そうやって悩んでいると、九条がスカートのポケットから先程の黒い袋を取り出した。


「それって……」


中から出てきたのは、金属製の細長い棒のようなものが数本。


しかしただの棒ではなく、先が折れ曲がっているものや、丸くなっているものもあった。


それを鍵穴にさし、カリカリといじる。


まさか。


「ピッキング」


用意周到すぎて怖いというか、なんというか。


「なんでそんなもの……」


「家にあったから」


なんかデジャヴを感じる、この会話。


それにしても、彼女の親は裏社会にでも住んでいるのか?


銃とピッキングツールなんて、そうそう家にあるもんじゃない。


そんなものを置いといて、なんのために使うつもりだったのだろう。


未だ、彼女には謎が多い。


家にあっただけと言いながら、九条は慣れた手先で鍵穴を弄っている。


これは前にも、不法侵入のためにやったことのある口なのだろう。


さっきまで秘密にしてたのは、僕を驚かせたかったからなのか。


彼女の行動にはもう何にも驚かないと言っていたが、早すぎる前言撤回をしよう。


よかったな九条、サプライズが成功して。
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