死にたい君に夏の春を
僕らの教室は、3年生が6クラスある中の2組だ。
他と比べれば、1番団結力のあるクラスだと思っている。
もっとも、九条をいじめている時だけである。
誰かが殴っても、誰も口出しはしない。
ほとんどのクラスメイトがいじめに加担したことがあり、皆が皆いじめを黙認する。
だが僕だけは、1度も手を出したことは無い。
無関心だったのだ。
誰がいじめようが、いじめられようが、僕には関係ない。
それ故に、誰よりもクラスの輪に入っていなかったのは、九条ではなく僕自身だった。
このクラスにはなんの思い入れもない。
だからこそ、作りたいのだ。
九条と青春をした思い出を。
「はい、開いた」
そんなことを考えているうちに、さっさと扉を開けていた。
中に入ると、月明かりが青白く教室を照らしていて、まるでどこかの絵画のように綺麗だった。
彼女はドアの前に立って、動かない。
すると何も言わず、ゆっくり青い空間に入った。
そっと机や椅子を撫でながら教室の真ん中まで進んでいく。
「どうしたの?」
彼女は少し考えて、こう言った。
「……教室って、こんなに広かったんだね」
後ろを向いていて、彼女がどんな顔をしているのかわからないけれど、その声はなんだか寂しそうだった。