死にたい君に夏の春を
九条は俯いたまま。


そうして、ゆっくり近づいてきた。


ロッカーの前に止まり、彼女は思いっきりゴミを鷲掴みして。


「このクソ野郎……!」


ロッカーに投げた。


「本当は痛かった。苦しかった。お父さんが心配してくれるからって、自分に言い聞かせて肯定的になろうとしてた。でも、私悪くないじゃん!貧乏なんだもん!仕方ないじゃん!」


殴るように、何度も、何度も、ゴミと暴言をロッカーに投げる。


その様子を、僕はただ見ているだけ。


「樹さんの……馬鹿」


そのまま、彼女はその場にへたり込んだ。


荒い吐息と、長い沈黙が続く。


僕は何も言葉が出ず、放心状態になる。


想像以上の彼女の行動に、がく然としていた。


そして彼女はふっと顔を上げて。


「……はー、スッキリした!」


満面の笑みでそう言った。


彼女は僕の方を向いた。


「高階くん」


「なに?」


「ありがとう、気づかせてくれて。私って、こんな風に怒れたんだね」


「……うん」


彼女は人を恨むことができず、ずっと我慢してきた。


苦しみや、悲しみや、怒りを溜め込んで、抑え続けていた。


それが今、ここで爆発した。


我慢していた感情が、溢れ出た。


九条はやっと、人間らしくなったのだ。
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