死にたい君に夏の春を
「ねぇ、落書きしようよ」


「落書き?」


「黒板とか、机とか、至る所に。ここにちゃんと、私達がいたって印を残そう」


「意外と大胆だな」


「うん。なんかうずうずしてさ」


「……まぁ、ちょっとしたイタズラとしては悪くないんじゃない?」


ちょうどいい。


僕も今、悪ガキになりたかったところだ。


そして僕達は赤や黄色のチョークを持って、色んなところに色んなことを書いた。


黒板には、クラスの太った男子や、担任の先生とかの似顔絵を描いて笑った。


樹の机には、いつも金魚のフンみたいにくっついてる女子との相合傘を書いてやったし、口が臭いことも書いたし、馬鹿だとか、アホだとか、程度の低い悪口も書いた。


だが、九条がいつも言われてた言葉、『死ね』とは1度も書かなかった。


僕はチョークを机に置き、椅子に座って一息つく。


「はっ、はは。なんか、小学生のイタズラみたい」


九条もパッパッと、手についたチョークの粉を払い、机に座った。


「暴を以て暴に易うってやつだよ」


暴力には暴力で立ち向かう。


小さくても、精一杯の抵抗。


「……少し違うような。というか、なんでそんな言葉知ってるんだ?」


「『最高の人生の過ごし方』に書いてあった。意味は知らないけど」


知らないのに使ったのか。


九条にしては博識だと思って関心するところだったじゃないか。


「前にも言ってたけど、その、本?なんなの?」


彼女は何も言わず、教室にあるクラス共有の小さい本棚に向かった。


そして一冊の本を取り出した。
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