死にたい君に夏の春を
「あれ、開いてる?」


しまった。


来ることを想定してなくて、鍵が空いたままだった。


「あーあ、こんな落書きしやがって」


だが開いてることはこれっぽっちも気にせず、黒板の方に注目する。


そしてクリーナーを持って、僕らが書いた落書きを消し始める。


僕らの馬鹿な似顔絵がどんどん消えていく。


消し終われば、机の落書きや僕達にも気づかず、さっさと教室を出て行き、鍵を閉めた。


しばらく静かにしていると、足音は階段を下りて行ったようだ。


「はぁ……。よかったー……」


安堵して、僕は机から這って出る。


教室に熱がこもっていたからなのか、冷や汗からなのか、汗が止まらない。


九条も汗を拭きながら机の下から出てきた。


冷静に見えたが、本当は意外と焦っていたのか。


そして彼女は安堵の吐息をもらし、静かに笑った。


「ふふ、あの人、全然気づかなかったね」


くすくすと、少女が肩を震わせて。


「はは……。ほんと、心臓止まるかと思った」


僕も自然と笑う。


何故こんな笑えるのかわからないけれど。


僕らは、緊張が溶けた勢いで笑いあった。


涙が出るくらい、笑った。
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