大江戸シンデレラ

着流しに袴姿をした長身の男が、縁側に立っていた。

腰に長刀・短刀を二本差ししていることから、武家であろう。

切れ長の目に、スッと鼻筋が通っていて、ちょっと薄めの唇。(かしら)は粋な本多(まげ)だ。

——歳の頃は……
若さまと同じくらいでなんし……

美鶴はその男を見つめた。


——あの夜……
とうとう行けずじまいでありんしたが……

若さまは……
わっちを待っていなんしたであろうか……

美鶴に後ろめたさが込み上げてきて、思わず男から目を逸らした。

すっかり変わってしまった目まぐるしい暮らしに……

吉原の(くるわ)(おんな)であったことをひたすら隠して過ごす日々に……

いつしか霞がかかったように(おぼろ)げになっていた若さま——兵馬の姿が、目の前の男を見て心にありありと甦ってきた。


「か、上條(かみじょう)さまっ」

すぐさま多喜は膝を折って正座し、男に向かって平伏した。

「なにゆえ、かようなむさ苦しい(ところ)へ……
何卒(なにとぞ)、母屋へお戻りくだされ」

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