大江戸シンデレラ
「……そなたはまだ、さような堅苦しき物云いをされるか、叔母上」
上條さま、と呼ばれた男が、板の間でひれ伏す多喜を見て苦々しげに笑った。
「されども、同心ごときの妻であるわたくしめが、内与力の上條さまに無作法な物云いなぞできませぬゆえ」
多喜はさらに深く頭を下げた。
「御公儀より内与力の御役目をいただいておるのは、我が父とその跡を継ぐ我が兄にてござる。
次男坊の某は、ゆくゆくは叔父上の跡を継ぎ、同心としてこの島村家に入ることになっておるというのに」
美鶴は、この屋敷の主人とその妻・多喜の間に子がいなかったことを思い出した。
男が「叔父上」「叔母上」と呼んでいることから、身分の差はあれど彼らの「甥」なのであろう。