大江戸シンデレラ
男は、片隅にきちんと畳まれていた敷布団と夜着を見た。
「もしや、この部屋……というか、納戸で寝起きをしておるのではあるまいか」
途端に、多喜の肩がぴくりと跳ねた。
「おい」
男は今度は縁側の方に目を向けた。
其処には控えるようにして、おさとが正座していた。
「悪いが、早急にもっと陽当たりの良い、まともな部屋を支度してくれ」
男はさように云いつけると、おさとは「へぇ」と応えて、直ちに立ち上がる。
「おさと、待たれよっ」
あわてて多喜が制する。
「かっ、上條さま……この者にお構いなきようお願い申し上げまする」
「されども……かような辛気臭い処、今に病を得てしまうぞ。
すでにこの方の顔色が、すぐれぬように見受けてござるが」
男が訝しげに顔を顰めた。
「こっ、この者は不届きなことばかりをしでかすゆえ……ば、罰にてごさりまする」
そして、多喜は美鶴の前に並べられたお菜を指差した。
「ほれ、あのとおり、この者は自ずから行商人より下賤な物を求めおって、武家のおなごにあるまじき賤しき所業をいたしておりまする」
「も…申し訳ありませぬ」
美鶴は男に向かって平伏した。