大江戸シンデレラ

「……お嬢」

脇で控えていたおさと(・・・)が、そっと美鶴にささやいた。

はっ、と我に返る。

——あぁ、そうでありんした。

美鶴が一つ肯くと、すかさずおさと(・・・)が抱えていた風呂敷包みを差し出す。

「島村さま……わたくしが縫うた浴衣(ゆかた)にてござりまする」

美鶴は受け取った風呂敷包みを勘解由の方へ、すーっと差し向けた。

「湯上がりに召されるには、もうすっかり時季外れになってしもうたが、良ければ夜着の寝巻きにでもなさってくだされ」

さように申したあと、平伏する。


勘解由の目が、風呂敷包みを捉えた。

されど、すぐにその視線は外され、縁側で控えていた中間(ちゅうげん)を見遣る。

すると、中間がいそいそと座敷の中に入ってきてその風呂敷包みを抱えたかと思うと、(うやうや)しく一礼をしたあと、その場を去った。


如何(いか)なる経緯(いきさつ)でなのかは、この先に至っても美鶴ごときが知る(よし)はないのかも知れぬが……

今から半年ほど前、世間では「苦界」と呼ばれるあの吉原()から()け出して、この御家(おいえ)に住まわせてくれたのが、今目の前にいるこのお方なのだ。

もう少し先ならば単衣(ひとえ)の着物でも縫えたが、どうせこの御家で広次郎と夫婦(めおと)になる身の上だ。
さような機会は、この先いくらでもあろう。

今は浴衣という形であれ、我が身の心持ちを(あらわ)すことができて、美鶴にとっては満足であった。

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