大江戸シンデレラ
「それに、刀根さまからも武家のおなごとしての心構えを、とくと聞き及んでおるゆえ」
刀根からは、当人抜きで家同士で縁談をまとめてしまう武家では、祝言の当日に双方が初めて会うということもめずらしくないと聞いていた。
「大儀であったのではあるまいか。
刀根は、なかなか手を緩めぬでござろう」
広次郎にとって刀根は「乳母」だ。
幼き頃より、実の母親よりもずっと甲斐甲斐しくあれこれと世話を焼いてくれるのはいいのだが、なにせ口煩かった。
されども、それこそ幼き頃より一癖も二癖もあるお師匠たちの下で精進してきた美鶴には、師と仰ぐ者から多少理不尽なことを云われようとも、そないなものかという程度である。
それよりも刀根のおかげで、かような短い期間にもかかわらず、曲がりなりにも「武家言葉」で話せるようになったのは、滅法界にありがたかった。
「滅相もなきことにてござりまする。
広次郎さまには、刀根さまと引き合わせてもらい、なんと御礼を申せばよいのか……」
美鶴は深く頭を下げた。
「いやいや、気に召されるな。
そなたの言葉が、さように早う改まって、ようござった」
広次郎は面を上げるよう促す。
「……まぁ、某としては、
そなたの『お故郷言葉』を、一度でも聞きとうござったがな」