大江戸シンデレラ
「……とは云え、おれが会うたのは、たった一回こっきりだったけどな。
それも、おてふが今のおめぇさんよかまだ若ぇ頃で、まだ見世に出る前の話さ」
美鶴は息をのんだ。
——やはり、舅上様は……ご存知であったか……
「『なよ竹のかぐや姫』ってのは、かようなおなごを云うんだな、って思ったな。
後光が差してんじゃねぇか、ってくれぇの、まるで観音さんみてぇな別嬪だったぜ」
産後の肥立ち悪しくこの世を去ってしまった母を、美鶴はその顔すら覚えていない。
「たった一杯、おてふは酌しただけで、その場の重っ苦しい空気をがらりと和ませやがった。
あいつぁただ器量がいいってだけじゃなくてよ、あの歳で既に客のあしらいまでも心得てたのよ」
そして、おてふはその後「胡蝶」として吉原でも名だたる呼出(花魁)となり、頂点を極めた。
「……云っても、うちの志鶴には敵わねぇがな」
そう告げて、多聞はにやり、と笑った。
兵馬によく似た「浮世絵与力」の不敵な笑みだ。