大江戸シンデレラ

「そ、空言(そらごと)にてござりまするっ」

美鶴は思いっきり力を込めて兵馬を突き放し、その腕の中から出た。

「わ、わたくしは……旦那さまが玉ノ緒と会っている(ところ)をこの目でしかと見ておりまする。
……それも、二度もっ」


「『二度も』だと……
おい、そりゃあ、いつの話だ」

兵馬は、凛々しい眉の根をぎゅっと寄せて(いぶか)しんだ。


「一度目は『若さま』が吉原の明石稲荷で『玉ノ緒』と()うてござった折で、二度目は『旦那さま』が町家の水茶屋で『おゆ()』と()うてござった折でありまする」

美鶴はすらりと答える。

「あぁ、そいつなら……」

と、兵馬が云いかけたとたん——

「ほら、心当たりがござりましょう」

間髪入れずに美鶴が返す。


「ちょいと待てって。
確かに『玉ノ緒』にも『おゆふ』にも会うてはいたが……断じて『逢引』ではないぞ」

「わたくしは舅上様から、
『ある者を身請けして、我が妻にしとうござる』
と旦那さまが頭を下げてまでお頼みになったことも聞いておりまする。
それは、玉ノ緒のことではござらぬのか。
舅上様はわたくしに、さようにお云いでござりましたが」

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