大江戸シンデレラ

美鶴は呆然と兵馬の顔を仰ぎ見る。

——まさか、若さまの本当(まこと)の想い人が……
わたくしであったとは……


今までの兵馬との遣り取りでいつしか青ざめていた美鶴の頬が、みるみるうちに朱に染まっていく。

すると今度は、それを兵馬に知られたくなくて、あわてて(うつむ)いた。


だが、しかし……

かように我が身に心を寄せてくれるお人は、もう一人いた。


「旦那さま……これよりわたくしが申すことに決してお怒りにならぬよう、お約束してくだされ」

兵馬は「何事か」と思うたが「(いな)」とは云えず、肯くしかなかった。


「実は……広次郎さまから、わたくしが離縁して三年ほど経てば妻に迎えたいと云われておりまする」


「くそっ、あの同心……やはり、さようであったか」

兵馬は吐き捨てるように云った。

だが約束した手前、「妻敵討」で叩っ斬ることはおろか「怒る」ことすらできぬ。


「返事は……まだしておりませぬ。
広次郎さまからは、返事は急がぬゆえ考えてほしい、と云われてござりまする」

広次郎には、島村家に身を寄せていた折に、当主の妻である多喜から辛い仕打ちを受けていた我が身を救い出してくれたと云う「恩」があった。

軽々に、返事するわけにはいくまい。


「そうか……相判(あいわか)った」


——『判った』とは……いったい……

美鶴は再び兵馬を仰ぎ見た。

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