大江戸シンデレラ

部屋持ちや下っ端の座敷持ち程度ならともかく、「呼出」になれるかどうかは、(しょ)(ぱな)で決まる。

将来、呼出(花魁)になるためには、歌舞音曲に和漢の書に手習いにと、その道の第一人者たちからみっちりと仕込まれる振袖新造(ふりそでしんぞ)になるのが登龍門である。

「振新」になれなかった時点で、まず「呼出」は目指せない。
親兄弟から女衒(ぜげん)に売り飛ばされた十代半ばの女子(おなご)ではもう遅いからだ。

ゆえに、振新のうちの多くが、(くるわ)の遊女や女郎たちが下手を打って産み落とした女子だった。


かような女子はまず同じ吉原の中にある「子ども屋」に預けられ、物心ついた頃より休む間もなく厳しく躾けられる。

やがて、廓に戻されたら見習いの禿(かむろ)を経て「振袖新造(ふりしん)」となり、本格的に見世に出されるが、まだまだ「修行」は終わらない。

客を取らなくてもいい代わりに「呼出」に付いて、客との遣り取りの中で手練手管を学び、来るべき客を取る初日……「初見世」に備えるのだ。


(ちまた)では、振新の「初物」をいただくと不老長寿につながると云われている。

いきなり上客の御大尽が相手となる。
しかも、満足させねばならぬ。

相当、つらく厳しい鍛錬となる。

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