大江戸シンデレラ

「……若さま」

小堂の中から、声を抑えたおなごの声がした。
(たが)うことなく、玉ノ緒の声だった。

此度(こたび)……身請けされることになりんした」

しばらく沈黙が続いた。


「……何処(いずこ)に身請けされるんでぃ」

押し殺した男の声が聞こえてきた。
こちらも、違うことなき兵馬のものだった。

「淡路屋さんでありんす」

「淡路屋ってぇと、主人(あるじ)内儀(かみ)さん一筋ってもっぱらの噂だから……息子の方か」

玉ノ緒は肯いたようだ。

「淡路屋さんは、旦那さんも若旦那も……()いお方でなんし。お内儀さんは若い頃、久喜萬字屋(うち)の見世にいなんして、旦那さんに落籍()かれなんしたお方でありんす。
……そないなお家に見初められたわっちは、(みな)から果報者と云われとりんす」

「だったら……よかったじゃねぇか」

「わっちには……見世から云われなんしたことに(そむ)くことなぞ、できなでなんしゆえ……」

玉ノ緒は涙声になっていた。

「されども……どれだけ若旦那が、わっちに優しゅうしておくんなんしても……」

弱々しく、か細い声だ。


「わっちの心には……やっぱり……
どうしても……若さまのことが……」

< 83 / 460 >

この作品をシェア

pagetop