大江戸シンデレラ
「……若さま」
小堂の中から、声を抑えたおなごの声がした。
違うことなく、玉ノ緒の声だった。
「此度……身請けされることになりんした」
しばらく沈黙が続いた。
「……何処に身請けされるんでぃ」
押し殺した男の声が聞こえてきた。
こちらも、違うことなき兵馬のものだった。
「淡路屋さんでありんす」
「淡路屋ってぇと、主人は内儀さん一筋ってもっぱらの噂だから……息子の方か」
玉ノ緒は肯いたようだ。
「淡路屋さんは、旦那さんも若旦那も……善いお方でなんし。お内儀さんは若い頃、久喜萬字屋の見世にいなんして、旦那さんに落籍かれなんしたお方でありんす。
……そないなお家に見初められたわっちは、皆から果報者と云われとりんす」
「だったら……よかったじゃねぇか」
「わっちには……見世から云われなんしたことに叛くことなぞ、できなでなんしゆえ……」
玉ノ緒は涙声になっていた。
「されども……どれだけ若旦那が、わっちに優しゅうしておくんなんしても……」
弱々しく、か細い声だ。
「わっちの心には……やっぱり……
どうしても……若さまのことが……」