大江戸シンデレラ

そのとき、舞ひつるは、はた、と気づいた。

——わっちは、あの日以来……
お稲荷さんにお参りに行っておらでなんし。

神罰が下った、と思った。

あないに毎朝通っていたにもかかわらず、兵馬に会いたくないがゆえに、すっぱりと詣でるのをやめた(ばち)が当たったのた。


とたんに、居ても立ってもおられなくなった舞ひつるは、黄八丈の(つま)をひょいとからげて帯に挟み込んだ。

それから、中庭に面した渡り廊下から見世の裏口にまわると、その場にあった下駄を適当に突っかけて、表に飛び出した。

あとは、一目散に明石稲荷へと向かう。


今さらお参りしたところで、なにも変わらないことは、頭では(わか)っていた。

それでも、急がずにはいられなかった。

往来を行く昼見世の品定めをしている客や、天秤棒を担いで商いをしている棒手振(ぼてふ)りたちが「何事か」と舞ひつるを振り返る。

されども、脇目も振らず、ひたすら駆けて行く。

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