三日月と狼
今の花澄にとって恭司は消したい過去でしかない。

花澄は流産した後、かなり状態が悪かった。

そのせいで不妊になったのでは?と時々考える事があった。

全ては恭司のせいで、恭司と出逢ったせいで
自分の人生は壊れていくんだと思った。

他人のモノに手を出した罰。

この男に出逢ってしまった悲劇。

花澄は恭司を避けて逢わない間もずっとその影に脅えていた。

恭司に会えばまたあんな地獄を見る気がした。

全てを失い、ボロボロにされる。

そう思って避けてきたのだ。

その男が今、目の前に立っている。

「花澄…結婚したんだってな。

急に連絡を断つなんて正直、驚いたよ。

別れられなくなりそうで怖かった?」

花澄は立っているのがやっとだった。

こんな不幸せで人恋しい時に
この男と再会するなんて目の前の恭司が悪魔に見える。

「花澄…なに緊張してるんだよ?

もっと肩の力を抜いたらどうだ?」

そう言って恭司が花澄の肩に触れようとして
花澄は思わずその手を振り払った。

「お願い。

偶然逢ったとしても声なんかかけないで。

知らないフリをして。」

花澄がその場から立ち去ろうとすると
恭司が花澄の腕を掴んだ。

「俺はまだ忘れてないよ。

お前がずっと忘れられなかった。」

花澄は恭司の手を必死に振りほどいた。

「触らないで。

私に触らないでよ!」

恭司に触れられただけで
昔の記憶が蘇る。

花澄は急いで駆け出した。

振り向く事なく、
咄嗟にケイのいる家とは逆の方向に向かって走った。

息を切らし、ひと気のない公園にたどり着くと
誰もいないブランコに腰掛けて息が整うのを待った。

もう大丈夫かと思った頃、
ブランコの背後から抱きしめられた。

「花澄…逃げられると思ったか?」

耳元で恭司の声がして
花澄は気を失うかと思うくらいビックリした。

しかしもうこれ以上逃げる力は残って居なかった。



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