キンヨウビノヒミツ+彼女が忘れた金曜日+
*** *** ***

「あぁ、もうなんなの。酷い。前橋君、今度ちゃんと奢るから!」

 店を出て繁華街を井上と歩く。先ほどの店で素直に奢られてやろうと思った矢先、お会計に来た店員の言葉に井上がフリーズした。

『申し訳ありません、カードリーダーが壊れてしまって、カード決済が使用できなくて…』

 肩越しにちらりと見えた井上の財布に生憎そんなにお金が入っているわけでは無いのが見えた。

 とどのつまり、さっきの店の会計は割り勘になったのだ。

 そういえば、次に会社で飲むのって俺の送別会だったりすんのかな。引っ越し準備はじめたら、飲みになんて来ないよな。

 そう思うと、特に通ったわけでもないけれど知った店もあるこの繁華街を素通りし難い気分になる。

「井上」

 なに? と傍らの井上が見上げてくる。

「もう一軒位行かない?」

「いいけど。あ、カード使えるとこが良い!今度こそ奢るから!」

 そこかよ、と思わず笑った俺に「だって」と井上が拗ねた表情を見せた。

 歩きながら適当に選んだ店で通されたのは、ものの見事にカップルシートだった。
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