キンヨウビノヒミツ+彼女が忘れた金曜日+
「この店、こんな席もあったんだね。友達としか来たことしかなかったから知らなかった」
井上は特にカップルシートであることも気にした様子もなく、オレンジ色の間接照明に照らされたソファにぽふっと座った。そういう関係ではないけど、井上が嫌がっているわけではなさそうなので隣に座ると、座面が沈み込んだ関係で、井上が少し寄りかかってくる。
近すぎて何となく気まずいのは井上も同じらしく、お互い言葉少なに運ばれてきたアルコールに手を伸ばした。カクテルを何口か飲んだ井上は、はぁ、と小さくため息をついた。
「最近の栄さん何なんだろう」
なにかあったのかと視線を向けると、溜息交じりに井上は続けた。
「何かと絡んでくるっていうか。遅くなっちゃったなーって日に限って帰りによく一緒になるし」
それ、煙草吸って時間調整されてんじゃね?
「先週の飲み会も、そもそも栄さんの隣しか席残ってなかったし。めっちゃ飲まされたし」
それ、ロックオンされてるからだと思うけど。
「あと、やたらと近いし」
「近い?」
「うん。コーヒー準備してたり、倉庫で在庫整理してるときに、すぐ後ろに立ってたり。頭撫でられたり……するの」
今、俺の肩に若干寄りかかるようになっている井上からはシャンプーの香りなのか微かにフローラル系の良い香りがした。
栄さんが、撫でんの? 井上の事?
それはなんか、ちょっとイラッとするんだけど。