キンヨウビノヒミツ+彼女が忘れた金曜日+

「この店、こんな席もあったんだね。友達としか来たことしかなかったから知らなかった」

 井上は特にカップルシートであることも気にした様子もなく、オレンジ色の間接照明に照らされたソファにぽふっと座った。そういう関係ではないけど、井上が嫌がっているわけではなさそうなので隣に座ると、座面が沈み込んだ関係で、井上が少し寄りかかってくる。

 近すぎて何となく気まずいのは井上も同じらしく、お互い言葉少なに運ばれてきたアルコールに手を伸ばした。カクテルを何口か飲んだ井上は、はぁ、と小さくため息をついた。

「最近の栄さん何なんだろう」

 なにかあったのかと視線を向けると、溜息交じりに井上は続けた。

「何かと絡んでくるっていうか。遅くなっちゃったなーって日に限って帰りによく一緒になるし」

 それ、煙草吸って時間調整されてんじゃね?

「先週の飲み会も、そもそも栄さんの隣しか席残ってなかったし。めっちゃ飲まされたし」

 それ、ロックオンされてるからだと思うけど。

「あと、やたらと近いし」

「近い?」

「うん。コーヒー準備してたり、倉庫で在庫整理してるときに、すぐ後ろに立ってたり。頭撫でられたり……するの」

 今、俺の肩に若干寄りかかるようになっている井上からはシャンプーの香りなのか微かにフローラル系の良い香りがした。
 栄さんが、撫でんの? 井上の事?

 それはなんか、ちょっとイラッとするんだけど。
< 15 / 43 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop