キンヨウビノヒミツ+彼女が忘れた金曜日+
「もーこれ以上男運とかなくなったら困るから。ホントに栄さんの呪いはこれ以上要らないから」
ぷはっと吹き出した俺に、恨めしそうな視線を井上は向ける。
「だってさー……。やめ。栄さんの話題終わり。イライラするもん」
手にしていた単行本を袋に戻すと井上は、俺が背にして座っていたベッドに座って、ぽてっと体を横に倒した。
「眠くなった?」
「うん」
肩越しに井上を振り返ると、眠たそうな眼差しが少し甘えたような色を宿して俺を見ているような気がした。
俺の家と井上の家は、1駅しか違わないから、送っていこうと思えば終電が無くなった今でも送っていける。だけど、「送っていこうか?」という言葉は出てこなかった。
真面目なのは、知ってる。素直なのも知ってる。可愛いのは……、そんなのはまぁ、最初から思ってる。
ただ、”同僚”だから、ずっと対象外だっただけで。
俺、置いてくの? 井上のこと、栄さんが狙ってんの、知ってるのに?
何で今日一日栄さんにあんなにイライラしていたのか。その理由は自覚してしまえば、単純な物だった。