碧い瞳のシャイ
海辺のお爺さん


穏やかな波と美しい夕陽

お爺さんは…

桟橋の端で椅子に腰掛けて

水平線に沈む夕陽を見つめてる

白い砂丘から

シャイが歩いて来ても気付かずに

「なぜ病院に行かないの?」

シャイはお爺さんの腕に前足を添えた

お爺さんは夕陽を見つめたまま口を開く

「心の声が聞こえるんじゃったな」

「うん!」

お爺さんは夕陽に反射する

シャイの碧い瞳を見つめた

「かれこれ三十年ぶりかの?…少しも変っとらんな」

「シャイって言うんだよ!」

お爺さんは微笑んだ

「ほほー…やっと名前を付けてもらったか」

「うん!」

お爺さんは真顔に戻る

「さっきの質問じゃが…もういいんじゃよ…」

「どうして!治る病気だよ!」

お爺さんはまた夕陽を見つめる

「彼女に逢えんのなら…生きていてもしょうがないんじゃ」

お爺さんは足下に視線を落とす

「おまえさんに勇気を持てと言われたのに…出来んかった」

「…」

シャイは黙ってお爺さんの瞳を見上げる


「あの頃は、老いらくの恋などと思とったが…今思うと全然若かったの~…」

「まだ間にあうよ…病気を治して逢いに行きなよ…君はなにもしないで、またあきらめるの?!」

シャイはお爺さんの腕を揺すった

お爺さんはシャイの前足を取って

肉球を優しく撫でた

「ありがとう…でも、もういいんじゃ…いいんじゃよ …」

そう言うとお爺さんは

水平線に沈みゆく夕陽に

瞳を預け続けた

シャイは白い砂丘に戻るしかなかった…


< 10 / 13 >

この作品をシェア

pagetop