オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない

16

「……ふむ。満席のようだな」
 到着したフードコートは多くの客で賑わっていた。幾つか空席は見受けられたが、あいにくと五人が纏まって座れる席は全て埋まってしまっていた。
「……仕方ない。フードコートは諦めて、どこか別の――」
「お兄さん、あそこの親子連れが食べ終わったゴミを纏めているでしょう? もうじき空くと思うよ」
 俺の袖を引き、三郎が囁いた。
 三郎が指し示す座席に目を向ければ、……なるほど! 六人座りのテーブル席にいた親子が、今まさに帰り支度をしているではないか!
「あっ! 空いたみたい!」
 そうして親子連れが席を立った瞬間、三つ子が目にも止まらぬ速さで座席に向かって走り、見事六人座りのテーブル席を確保した。
 俺は子供達の見事な観察眼と瞬発力に感心しきりだった。
「これで全員でゆっくりと食事ができるな。俺が適当に買ってくるから、皆は座っていてくれ」
「あ、私も行きます!」
 俺がフードメニューを買いに席を立てば、月子が鞄から財布を取り出して、俺の後に続こうと腰を浮かせた。
「「「あー、だったら俺らが一緒に買いに行く!」」」
 けれど、一番奥の壁寄りに座っていた月子が席を立つのに難儀している内に、子供達が我先にと転がり出て俺に続いた。
 ……ふむ。これは非常に都合がいい。
 月子の好物(候補)をたーんと買ってきて、月子の真の好物を見定めようではないか!
「そういう事だから月子、すまんが留守番を頼む」
「ちょっ!? 明彦さん、うちの分のお支払いっ……! ねえ一郎、次郎、三郎! 私の財布を持ってって!?」
 言うが早いか、俺は後ろに三人を伴って、フードコートをずんずんと突き進んだ。
 月子が座席からこちらに向かって何事か言い募っていたが、残念ながら足を止めるには至らなかった。
 ……まぁ、この人混みだ。少々耳も遠くなるというものだ。
 直接名前を呼ばれた一郎以下、他の子供らも月子を振り返る事なく、足取り軽く俺の背中に続いた。
「え!? お兄さんそんなに買うの!?」
 そうして三店目のケバブ屋で続々と注文を重ねる俺に、次郎が声を上げた。
「ん? まだ三郎の両手が空いているから、十分に持てるだろう? あぁ、この後はたこ焼きにカレーライス、他にも幾つか買って戻るぞ」
「「「……す、すげぇ!」」」
 そうして俺は子供達を荷物持ちに、端から順番に店を回り、各店のメインメニューを一通り購入して月子の待つ席に戻った。
 テーブルの上には、各種ホットドック、各種たい焼き、各種たこ焼き、他にもケバブ、カレーライスといったフードコートの各店のメニューが勢ぞろいして置ききれないほどになっていた。
「なっ!? 明彦さん、どうしたんですか!? なんですかこの凄い量は!!」
 月子は驚愕に目を丸くした。
「ふむ。実際に店に行ったら、どれもこれも食べてみたくなってしまってな。つい、端から買ってしまった。とはいえ、全て持ちかえりの容器に入っているし、万が一残れば持ちかえればいい。無駄にはならない」
「それは……」
「まぁとにかく、折角だから温かい内に食おう」
「「「賛成ー! ねーちゃん、食っていい!?」」」
 月子はまだ釈然としない様子だったが、キラキラとした三対の目で見つめられれば、それ以上言い募る事も出来ずに口を噤んだ。
「……それじゃ、いただこっか」
「「「いっただきまーす!」」」
 月子の了承を得た子供らは、思い思いのメニューに手を伸ばし、嬉々として頬張った。
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