オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない

18



「「「お兄さん、どうもありがとうございました!」」」
「ああ」
 アパートの前で車を停めれば、三つ子がそろって礼を口にする。そのまま三つ子は、手際よくトランクから買い物袋を運び出す。
「本当に今日は何から何まで、ありがとうございました。それに結局、フードコートの食事、ご馳走になってしまって……」
 三つ子を横目に、月子は開けたカーウィンドウの向う側で、恐縮しきりの様子で俺に向かって頭を下げた。
「なに、あれは全て俺が食いたくて買ったんだ。なにより強引に誘ってしまったんだから、せめて代金くらいは持たせてくれ」
 一郎と次郎が、買い物袋を手に、アパートの外階段を上る。その少し後ろを、トランクから残る買い物袋を取り出した三郎が続く。
 そうして三つ子は外階段を上り切ると、室内に消えた。
「明彦さ……、っ!」
 その時、突発的に風が吹き抜けて、月子の髪を巻き上げた。
 俺はカーウィンドウから手を差し伸ばし、月子の頬に影を落とす髪を指先で掻き上げた。
 絹のような滑らかな感触に、否が応にも胸が高鳴る。ともすれば指に絡めて口付けたい衝動に駆られるが、理性で封じ込め、そっと耳に掛けつけた。その時に、指先が耳殻を掠める。
 その吸い付くような感触に、俺は一人、密かに生唾を呑み込んだ。
 ……薄く柔らかなその耳朶は、唇で味わえば、どれほどに甘いのだろうか?
「それから月子、ランチの件、覚えておいて?」
「はい」
 俺は浮かぶ邪な思いをひた隠して平静を装い、せめてもと艶やかな月子の髪をサラリとひと撫でして手を離した。
 月子の髪が指の隙間を滑る、得も言われぬ心地。いつか、この感触を誰にも憚る事なく、心ゆくまで堪能できたなら……。
 俺がうっとりと夢心地で月子を見つめていれば、……突然視界から月子が消えた!?
「今帰り? ずいぶん遅かったね」
「葉月……!」
 ……いや、消えたというのは語弊があって、正確には、月子はアパートの逆方向からやって来た男に腕を引かれ、その背中に隠されてしまっていた。
 突然現れて、親し気に月子の腕を取る男……。
「やぁ、こんばんわ。弟の葉月君かな? 俺は――」
「知ってます。明彦さん、ですよね?」
 整った目鼻立ちのスラリとした青年は、月子によく似た面差しをしていた。三つ子の幼さを抜きにしても、目の前の青年の方が、余程月子に似ていると思えた。
「なぁねーちゃん! 肉、どこにしまうー!?」
「醤油、五本も収納に入んないよー!?」
「サラダ油もだよー!」
 するとここでアパートに入ったはずの三つ子が、再び扉からひょっこりと顔を出し、口々に月子に向かって呼び掛けた。
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