オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない

22


 次に視界に飛び込んだ明彦さんもまた、燃えるような熱の篭る目をしていた。
「明彦さん……」
 私達はどちらからともなく唇を寄せ合った。
 触れ合うだけの口付けは段々と繋がりを深くして、舌先を絡め合い、口内の感触と温度までを味わう。
 吐息まで奪うような熱い口付けに、頭がくらくらした。それに伴い、体からフッと力が抜けて、明彦さんに回していた腕が、パタンと敷布に落ちた。
 その時、手の甲が何かに触れる感触があった。
 ピッ――。
 え? 上がったスイッチ音に、疑問が浮かぶ。
『よいではないか、よいではないか』
 すると目の前の大型モニターに、好色を絵に描いたようなお殿様のドアップが映る。
 え? え?
 熱に浮かされていた頭に、大量の疑問符が浮かぶ。
 そうこうしている内に、モニター内の画像アングルが切り変わり、お殿様が女中らしき着物姿の女性の帯を引く。
 半ば放心状態のまま、しかし視線は目の前のモニターに釘付けになっていた。
『お許しくださいお殿さま……あ!? あっ! あ~れ~――』
 ピッ――。
 再びのスイッチ音の後、モニターの電源は落ちた。
 同時に、私は忘れていた呼吸を思い出し、胸に溜まった呼気を吐き出す。そうしてモニターに釘付けになっていた目線を、ゆっくりと明彦さんに向ける。
 そうすれば、明彦さんが右手にリモコンをぎっちりと握り締め、私を見下ろしていた。
「「……」」
 私達は無言のまま、しばし見つめ合う。
「は、ははっ、ははははっ!」
「ふふっ、ふふふふっ!」
 そうして私と明彦さんは、同時に声を上げて笑った。
「いえ、すみません! 私、まさかリモコンがあったなんて……ふっ、ふふふふっ!!」
「いや月子、俺もまさかモニターにあの映像が映し出されようなどとは……はっ、ははははっ!!」
 おそろしや、コンセプト系ラブホテル……。
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